専門の診療所に休日は無い。

診察を受けに来るの者はその怪我の程度も、頻度も自由気ままな為に定休日を設けにくいのだ。

というよりも経営者が金儲けの話を潰さないと言った方が正しいだろうか。

そんな診療所で看護師として働いているメルケは、今回初めての休暇を貰っていた。

本当に唐突としか言いようのない休暇に困惑したのも束の間。

メルケは沢山のサンドイッチを詰め込んだバスケットを持って、怪物の森の外まで散歩に来ていた。

リヴリーアイランドの中としては閑散とはしているが、 風通しも見晴らしも充分に良い高台で食べるサンドイッチにメルケは舌鼓を打った。





「やっぱりおそとでたべるほうがおいしいな!…でもみ んなもくればよかったのになぁ。」





「どうしても行きたい のなら一人で」と釘を刺されている以上、メルケにはそれに従うしかなかった。

そうして暫くサンド イッチを食べたり、景色を見たりして時間を潰していたメルケだったが、不意に感じた気配 に急いで身を隠す。

ゆっくりとした足取りで近付いて来る足音に、メルケは身を縮こまらせた。





「あーあ ーお腹空いたなぁ。ねぇローサ?」





メルケは、まだ少年特有の 幼さを残した声に、そっと胸を撫で下ろす。

最近増えているモンスターを問答無用で狩り に来るリヴリーかと思ったのだが、自分とそう変わりそうの無い声からして危険性は無いと判断 したのだ。





「(こうしてじっとしてれば、だいじょうぶだよね…。)」





このまま少年が立ち去るのを待とうとメルケが息をついたその時。





「そこの 木の陰に居るのは誰?」

「!」

「早く出てくれば何もしないよ。」





恐らく自 分を指して言ったであろう言葉にメルケはびくりと肩を揺らす。

そして少年の言葉を信じて木の陰から 恐る恐る顔を覗かせると、片目を隠したカンボジャクの少年が此方を見て微笑んでいた。

茶色でチェック のキャスケット。そして腕に抱えた大きなウサギのぬいぐるみ。

少年は、自分が想像していたよりもずっと 普通の姿をしていた。

急に肩の力の抜けたメルケは、笑顔を浮かべて、少年に走り寄る。





「あ、あの…わたし、メルケっていうの。あなたは?」

「僕はHo ly、こっちはローサだよ。」





ひょいと目の前に出されたのは愛らしいウサ ギのぬいぐるみ。

メルケの瞳が輝いて、ぬいぐるみを見つめた。





「かわい い!Holyのうさぎさん、ローサっていうんだ。」





Holyは興味津々といった様子で ローサを見つめるメルケに、歯を見せて笑いかける。





「何なら触らせてあげても いいよ?但し、キミのバスケットの中の食べ物をくれたらね。」





Holyの指で示さ れたそのバスケットを抱え直したメルケは勢いよく頷いた。





*   *   *





「ねぇねぇ、どうしてHolyはメルがこのサンドイッチをもってるってわかった の?」

「ん?それはね、キミのバスケットからとても良い匂いがしたからだよ。」





言ってからHolyはサンドイッチをもう一つ口に含む。

彼が今食べているのは苺が挟んであるものだ。

他にもフルーツを挟んだり、チョコレートやクリームを挟んだものもある。





「丁度お腹も空い ていたしね、メルケに会えた僕って運がいいのかも。」

「ふふっメルもそうおもうよ!だっ てHolyやローサにあえたもの!」





僕が食べている間に、と預けられたローサ の頭を撫でてメルケが頬を染めた。

普段の生活の中では触れる事も無い様な、愛くるしいぬいぐ るみはメルケにとってとても貴重なものなのだ。

ローサをしっかりと抱きしめるメルケを見て、Ho lyは首を傾げる。





「キミは、ぬいぐるみや人形を持っていないの?」

「…う ん。メルは、ひとつももってないよ…。」





視線を落としたメルケの表情が寂しげに 歪む。

それでもローサの頭を撫でる手だけは休めない。

「ふーん」と意味有り気に 相槌をうち、Holyは空を見上げる。

Holyにならってメルケも同じ様に顔を上に向 けた。





「だったらさ、」

「?」





メルケ が上げた顔をHolyに向ける。





「僕のお家に招待してあげようか。」

「え?Ho lyのおうち?」

「うん。僕のお家にはたっくさんの人形があってね、勿論ぬいぐるみも ね。」

「ほ、ほんとう!?」

「キミだから特別に、だけどね。」

「…そっか… メル、あんまりおそとにあそびにいけないから、Holyのおうちにいけるかどうかわからない… 。」





咄嗟に喜んだメルケだったが、自分の身の上を思い出して苦笑する。

自 分の判断だけで向かって万が一の事があったら困るのだ。

それでもHolyが自分を 励まそうとしている事に気付いたメルケは明るく振る舞う。





「でもね、きょ うHolyとローサにあえて、メルすっごくたのしかった!だから…またここでHolyたちにあいたい… だめ?」

「…仕方ないなぁ、考えておいてあげるよ。」





Holyはにや りと笑ってメルケの頭を撫でた。

その手つきは優しく、メルケは自然と瞳を閉じ てされるがままになる。





「そうだね、その時はまたこうしてサンドイッチ を作ってきて欲しいな。」

「まかせて!Holyのためにいちごもチョコもジャムも ぜんぶはさんだサンドイッチ、たっくさんつくってくるね!」

「楽しみにしてるよ。… あ、流れ星」





Holyが指差した宵の空を一筋の光が通り過ぎた。

ひ とつ、ふたつ、みっつと白い光が流れて行くのを見つめて、2人はお互いの小指を差し出し た。





「それじゃ、ね…約束だよ。また今度ね。」

「うん!メル、たの しみにしてる!」





いつの間にか流星群となった流れ星が、顔を突 き合わせて笑う子供達の頭上を美しく彩った。










サンドイッチとぬいぐるみと流星群にての約束。

藍鉄鋼様より第二回絡み小説企画で戴きました