Pleasant tea party

じまりは僕の気まぐれ



少しだけ、風が冷たくなってきた
それでも綺麗な青空と、清々しいくらい真っ白な雲が浮かんでいて、
そんな空をぼんやりと眺めていたHolyは、あったかい紅茶が飲みたいな、なんて思った
やわらかな湯気をあげる紅茶と、となりに真っ赤ないちごの乗ったケーキもいいな
いちごみるくも飲みたいけど、温かいいちごみるくは好みじゃない
やっぱり今日は、紅茶の気分だ

そんなことを考えながら、ふと、ゆるゆる動くブラウンの尻尾をふと思い出した
ひさしぶりにゆっくりお茶するのも悪くないかな
うん、いい考えだ。
座っていたベンチから立ち上がると、あの親友に会うために歩き出した



***



Holyが物思いにふけっていたと同じ頃、承琥も空を見上げていた
なにも変わらない相変わらずの空を見上げて溜息をつく

暇。

あいにく今日はなにもない
今日作ると決めているケーキもないし、買い出しに行く予定もない
それに、いつのまにか無くなったティーセットだとかを買わないといけないのに、贔屓の店は本日休業
ないない続きでどうしようかと頭を抱えて、何気なく外に出てみたのはいいが、
行くあてもなかったことに気がついて、とりあえずと公園のベンチに座り込んでいた

「あーあ、お茶会への誘いでもあればいいのに」

そんなことありえない、とは頭の中では分かっていても、口に出さずにはいられなくて
落ち込んだ自分の気持ちを混ぜ込んで、また、溜息をつく
人のいない公園を選んでここに来たのだから、どうせ誰もいない、
そう油断していたのがまずかった

「そんな承琥にお茶会のお誘い、どうかな?」

そんな声が突然空から降って来たときには、飛びあがって驚いた
それからベンチからどすんと落ちて、思いっきり腰を打つ
情けない格好のまま、声をかけてきた人物を見上げると、
ばくばくと動悸の止まらない心臓を押さえる承琥をにっこりと笑顔を見せるHolyがのぞきこんでいた

「ヒヒッ、ごめんね。そんなに驚くなんて思わなかったよ」
「い、いや、大丈夫、…」

まだ驚きが消えないのか、あはは、なんて力なく笑って見せる
さっとHolyが手を差し出すと、その手を取って立ち上がった

「ところで、お茶会のお誘いって、?」

服についた砂をはらいながらそう尋ねる承琥に、Holyはまたヒヒッと笑った
そのまんま、承琥をお誘いするよ、なんて楽しそうに言ってくるから、
ただ単純に、ないない続きでもいいこともあるんだな、承琥はそう思った

「お誘いありがとう」
「どういたしまして」

そんな二言を返事に変える
それからふと、二人の目が合ってどちらがともなく微笑んだ

「どこでお茶会やるの?」
「僕のおうちでどうかな。薔薇が綺麗な庭があってね、そこでやろうかなーって」
「いいね、楽しみだ」

そんな他愛もない会話を交わしながら、二人はゆっくりと歩き出した



***



雑木林に足を踏み入れたときから、へんだな、と承琥はぼんやりと思った
なんとも言えない不思議な感じが、ここから先にはたくさんの人がいるような、そんな気ばかりするのだ
三人とか四人とか、それくらいの人数ではなくてもっと多い
気になって、先を歩くHolyに尋ねてみる

「この先に、人が…たくさんいたりする?」
「人?たくさんはいないけど」

そこまで言ってHolyはなにか気がついたように笑った
ああもしかして、そう独り言のように言うといたずらっ子のような笑顔を向けた

「お人形さんならたくさんいるよ」

そうか、と納得する
人形の気配が奇妙な雰囲気をつくっていた、そう言うことだろうか
オレの考えすぎかもしれないけど。承琥は、少しずつ開けてきた雑木林を見つめながらそう思う


「ここが、僕のおうち」

そう言ってHolyが屋敷を手で示す
大きい屋敷とその周りを囲む庭、その庭に咲く真紅の薔薇
それを見て思わず承琥は、おおーっなんて間の抜けた反応をしてしまったのだった



***



「この庭を見るとみんなびっくりするんだ。どうしてだろうね」

それから、庭のとある場所で二人は紅茶を飲んでいた
少し前には承琥がキッチンを拝借して真っ赤な苺の乗ったショートケーキを作り、
承琥はあいかわらずだね、とHolyに呆れられた

そのケーキも一緒に並べてようやく一息ついたとたん、Holyが突然そう言った

「そりゃあ、この庭が綺麗だからじゃないの?」
「そうかな。そう言ってもらえるといちごも喜ぶよ」

Holyはくすくす笑いながら紅茶を一口飲んだ
同時に優しげな風が吹いて薔薇がゆらゆらと揺れる

「そんなことよりさ、僕、話したいことたくさんあるんだ。聞いてくれるでしょ?」
「もちろん!せっかくのお茶会だし、いくらでも聞くよ」

ケーキもたくさん作ったしね、と笑いながら付け足した


赤い庭園に二人の話し声が楽しげに響く
ケーキの甘いにおいと薔薇のやわらかい香りが風に吹かれるたびに辺りを舞った

お茶会はまだまだ終わらない。



***



「ばんびのー!昨日ね、ほりがお茶会したんだって!」
「へぇ、そうなんですか?」

喫茶店に入った途端、ぐうぜんにも自分の話題でHolyは肩をすくめた
いつのまにか店内に入っていた客人にようやく気がついたウェイトレスが慌ただしく走り寄ってくる

「ほりー!いらっしゃーい!」

ご注文は、そうbambino尋ねるまえに、いつもの、と答える
いつも通りの席に落ち着いて、窓の外を見た
空は昨日と同じく綺麗な青空で、あの親友の明るい笑顔がふと浮かぶ
また承琥とお話したいなぁ、なんて思いつつ、いつのまにか口元がゆるんでしまう

そのときbambinaが、丁寧にチョコレートパフェを運んできた
大きなパフェの陰にはいちごミルクがひっそりと乗っている

「昨日はお友達とお茶会をしたそうですね?」
「うん、楽しかったよ」
「ね、ね、つぎは喫茶店でお茶会しようよ!」
「うーん、考えとく」
bambinaのうしろからついてきたbambinoにくす、と笑って見せる
テーブルに置かれたパフェをそうっとスプーンですくった

コケモモ様より1nd anniversary企画で戴きました
ケーキと紅茶とそれから薔薇と