アルゴルはいつもの路地裏の縄張りで、馬鹿な獲物がかかるのを待っていた。
昨日たらふく食ったせいか、今日は自ら出向くほど腹は減っていない。
余計な大量を使うより面白そうなことが起こるのを待つか、と思って待っていたらいつかの黄色い少女が現れた。
こいつは食えない。食ったら面倒なことになる。
いや、食わなくても面倒なことになる。
彼にとっては、稀に見る頭の回転の良さでそう理解すると、瞬時にその場にいなかったことにしようとした。
…のが悪かった。

「あ、アルゴルおにいちゃ、まって!」

メルケはぺたぺたとアルゴルを追い掛けて走り出し、躓いてこけた。

「お、おい…っ!」

逃げていたのも忘れ、思わず駆け寄る。
不幸なことに、この男は無自覚ではあるが兄貴肌だった。

「ふっ、ふぇ、ふええええん」

ぼろぼろと泣き出したメルケを見て、慌てるアルゴル。

「泣くな、いい子だから、ほら、泣くな」

小さな子どもの扱いに慣れているはずもないものの、必死に泣き止ませようとする。
おどおどしながら大男が小さな少女を泣き止ませようとする姿は、遠目でみると兄弟のよう。

メルケが何度も頷くと、安心したように表情を柔らかくするアルゴル。

「よーしいい子だ、立てるか?」

こくん、と頷くメルケに、手を差し出して助けてやる。
完璧にお兄さんになってしまっていることに、彼はまだ気がついていない。

…俺は一体何してんだ、とこの状況が馬鹿馬鹿しくなっているものの、まんざらではない辺りお兄ちゃんである。

「あのね、アルゴルおにいちゃん、おなかすいてない?
メルとにごはんたべよ!」
「…は?」

いや、俺はお前を飯にしたいんだが…
心のなかで呟くが、彼女が知る由もない。

「ほら、こっち!」
「あ、あぁ…」

元気よく走り出すメルケに呆気をとられて、後ろからついていく。
完全に彼女のペースに乗せられているアルゴル。

なんて無防備な餓鬼だ。
自分が何を考えているのかも知らずに、本当に嬉しそうに笑うメルケを見て、アルゴルはため息をついた。


「ここ、きれいでしょ?」

いつの間にかセットされていた可愛らしいレジャーシートにサンドウィッチ。
この上に俺が座るのか、と思いながらも座らない訳にはいかないので、まあいいかと座る。

「はい、アルゴルおにいちゃんには、ハムサンドだよ!」
「…さんきゅ」

差し出されたハムサンドを受け取り、メルケ自慢の風景を楽しみながら食べる。
普段では見ることの出来ない風景に、口には出さないものの、アルゴルも楽しんでいた。

「おいしい?
メルが作ったんだよ!」
「あぁ、うまい」
「やった!
まだいっぱいあるからいっぱいたべてね!」
「…あぁ」

あまり話す方でも寡黙なわけでもないアルゴルは、メルケの話を聞いていた。

「でね、メルね!」
「そうか、よかったじゃねえか」
「うんっ!」

彼は無邪気すぎるメルケに毒気を抜かれ、一緒に食事をするのを楽しんでいた。
そうかそうか、と相槌をうち、久々に口に入れたサンドウィッチに舌鼓をうつ。
たまにはこういうのも悪くないか、と新しいサンドウィッチを食べながら思った。




ピクニック!
(あっ、メルもうかえらなきゃ!アルゴルおにいちゃん、ばいばい!)
(メルケ、送っていってやるから走るな、こけるぞ)
(うんっ、わかった)