此処はとある森のなかにある研究所。
元々人が寄り付かない場所にあるそれは、訪ねる人は勿論のこと、用のあるものも滅多に立ち寄らない場所。
そこに私は居た。

もっとまともな入れ物はないのだろうか。
入っているものは彼曰く普通のものであるお茶がビーカーに入れられている。
ただ、此処で出されたものを飲まないことは半ば常識のようになっている。
…と、いうのも此処で出された飲み物を飲んだら最後、彼のモルモットになってしまうからですが。

「…それで?今日は?」
「いやあ、遠方遥々いつもご苦労様です。
今日はこれをみて貰いにきたんですよ
ほら、どうですか?」
「これはこれは…」
「興味深い、でしょう?」

渦巻き眼鏡越しの目がきらりと光る。
本当に、彼の研究室は私を退屈させない。

「えぇ、とても」
「実験中、たまたま生まれましてね。」
「なるほど」
「どうやら主成分は…で…」
「と、なると…で、…なわけですね。」
「さすが、Mr.王鴉!話が早い」

彼は本当に楽しげに実験結果と、それでうまれたこの物質について語る。
同じ次元の人間と話せるのが嬉しいのだろうか。
まあ…こんな話一般人にしてもわからないと思いますしね。

「素晴らしい!
来ていただいて大変助かりましたよ!」
「いえ…それよりこれは戴いても?」
「どうぞ。
何の収穫もなしに此処まで来ていただくなんてこと、させませんよ」

いいかおりがしていると思ったら、彼がたいやきを食べていた。

「…どうですか?御一つ」
「いえ、結構です。」

どうやら用件は済んだようでした。
彼は用はないとばかりにキャスター付きの椅子に座りながら、鯛焼きを食べ薬品を弄っていた。

「それでは」

口に詰め込みながら何か言っていた気がしたが、恐らくさようならだとか、そういう言葉だろう。
わざわざ聞き直すこともないと思い、面白い実験台を持ちながら車椅子を押す。

「…十六夜、帰りますよ」
「聞こえてるよ」

屋根の上から軽やかに降りてきた、紅い化け物にそういうと、彼は私の車椅子を押した。
さて、戻ったらこの実験台を一匹解剖してみましょうか。