「ほーりくんっ」
「…あ、雨鈴さん」
「お兄ちゃんと呼んでくれ」
「お、お兄ちゃん…?」
「そうだよお兄ちゃんだよ!」

がばっといきなり抱きしめられ、驚いて抵抗もできずに為されるがまま。
半ば諦めて好き勝手されてみる。
抵抗するのも、この状況だと面倒だ。

「今日はきみが僕と出会うために生まれてきた日なんだね」

…頭大丈夫だろうか、この人。
ちょっと、いや、結構心配になってきた。

「急にだけど…これ、きみに受け取ってほしいんだ」
「は、はあ…?ありがとう、ございます…?」

全く中身が予想できないプレゼントに、警戒しながら中を開けてみる。
出てきたのはシックな赤色のネクタイ。

「あ、ありがとうお兄ちゃん!僕嬉し…わっ…」

もう一度強く抱きしめられて、言葉が遮られる。
ちょ、ちょっと…なにこの状況…

「お兄ちゃんもほりくんに喜んでもらえて嬉しいぞ!
なんて可愛いんだほりくん…!」
「かっ髪の毛、ぐしゃぐしゃに、なる…」


くしゃくしゃと撫でられて、普段ではあまりされないことに戸惑う。
混乱したまま少しだけ抵抗してみると、すぐにごめんね、と撫でるのをやめる。
手櫛で髪の毛を気持ちだけでも整えようと試みる。

「櫛、使うかい?」
「あ、はい…」

すぐに櫛が出てきたことに驚きながらも、受け取って整える。
帽子を被ってきたらよかったかもしれない。
出かける前の自分の気まぐれを少し後悔する。
今日は出かける直前に被っていないことに気がついて、まあいいかと出てきてしまった。

「櫛、ありがとうございました」
「あ、うん。ところでほりくんは、どうしてこんなところに…」


確かに、こんなこどもが一人、路地裏をうろつくなんて不自然かもしれない。

「あぁ、喫茶店でケーキを戴いてきたところなんです」
「喫茶店…?」
「ここを真っ直ぐ行って右に曲がったところにあるんです。」
「へぇ…」
「味は僕が保証しますよ」
「今度行ってみようかな」
「是非。」

にこり、と笑えば彼は穏やかにありがとう、と答えた。
こうしてれば普通の人なんだけどな…

「じゃあ、僕そろそろ帰らなきゃ」
「送っていこうか?路地裏はいろいろと物騒だからね」
「大丈夫だよお兄ちゃん。
僕こうみえても強いからね」
「そ、そうかい…?」
「じゃあね、ばいばい」
「あっ…ほりくん…!」
「…?」





誕生日おめでとう
(・・・ありがとう)
(これからもお兄ちゃんはほりくんのこと大好きだからな!)
(……(もうこの人駄目かもしれない))