甘いかおりが、窓から入る涼しげな風に運ばれてくる。
そんなところで何をしてるかっていうと、れぎの焼いたクッキーを食べながら、彼女たちの天文台で星を見てるんだ。
いわゆる、天体観測ってやつ?

「天気予報当たりだね。びっくりするほどいい夜だ」
「は、はい・・・
雲一つない、綺麗な、夜空ですね」

こるくんが直してくれたらしい、望遠鏡を覗いてるぽらちゃん。
その隣で、僕は三日月を背中に鈴虫の大合唱を聞きながら、天体の本を読んでた。
星なんて意識したことないから、みたことのない名前ばっかり。

「ほ、ほーりーくん!見て下さい」
「どうしたの?ぽらちゃん」
「この、星、なんですが・・・。
見えますか・・・?」

ぽらちゃんが、僕の眺めていた図鑑を指さして、星の名前を教えてくれた。
僕も彼女に倣って覗いてみるけど、何が何なのか全然わからない。
多分、今見てる中のどれか一つだと思うんだけど・・・。
もう一度図鑑をみて、確認をする。

「ねえ、ぽらちゃん。
あの右上の赤いのが×××なの?」

ぽらちゃんは僕の横から覗き込む。

「それは、その、〇〇〇なんです」
「え、じゃあこの一番明るいの?」
「そこの、隣の、黄色い方なんです」
「この明るいのは何?」
「明るい方は・・・△△△と言うんです・・・」

ぽらちゃんに教えてもらっていると、隣かられぎと言い争いをしていたはずのこるくんがやってきた。
何かの修理をしていたはずなんだけど、そっちはもう終わったのかな。

「Kohleさんも、見ますか・・・?」
「あ、あぁ、うん。ありがとう、ぽらちゃん」

にこりってぽらちゃんに笑ってから、覗き込もうとしたところで、後ろかられぎちゃんの声。
そっちの方に、散乱したままのスパナとか とかがおいてあったから、多分彼は飽きて逃げてきたんだ。

「あんたはこっちを見なさい」

いい弄る口実ができたから、僕も便乗。

「僕とぽらちゃんの楽しい一時を邪魔しないでよ。お邪魔虫」
「ほら、ほりもそう言ってるじゃないの。
早く作業に戻りなさいよ邪魔者」
「レイナ、ほりくん・・・?」
「ほりくんもレイナも酷いじゃないか。
俺も星、見たいんだ。いいだろ?」
「その口でっ、レイナって呼ばないで!」

急に怒ったれぎに、僕とこるくんはぽかんってした。
どうやら、れぎが我に返る方がはやかったみたい。
僕たちは、彼女のタメ息でハッてなったから。

「ご、ごめん・・・」
「謝ってる暇があるなら、早く直しなさいよ。」
「あぁ、そうするよ。」

二人のやりとりをみながら、黙々と口から皿へ口から皿へって手を動かしてたんだけど、無心でしてたのもあるのかな。
カンって皿の底と僕の爪がぶつかって、高い音をたてた。
もう山盛りあったクッキーは、いつの間にかなくなっちゃってたみたい。

「クッキー、まだ、食べますか・・・?」

皿を見詰めてた僕に、ぽらちゃんがそう言った。

「レイナ、凄く、張り切っちゃって、いっぱい、作ったんです。
ま、まだ、その、たくさん、あって・・・
食べませんか・・・?」
「本当?!
うん、じゃあ戴こうかな」
「は、はい。
なら、すぐにお持ちしますね」
ぽらちゃんがクッキーを持ってきてくれてる間に、僕は再び望遠鏡を覗いてみることにした。
さっき覚えたばかりの星や、初めてみた星を図鑑をひきながら見ていく。

いっぱいいっぱい見ていたら、こんな静かな紺色の夜空に、一際光るお星様をみつけた。
何ていう星だろうって図鑑を調べてみるけど、どれだけ調べてもどこにもなかった。
ぽらちゃんなら知ってるかなって思って、彼女が戻ってくるのを星を眺めながら待つ。

しばらくしたら、ぱたぱたって足音がして、僕のとなりでぴたりととまった。
どうやら戻ってきたみたい。

「すみません、お待たせ、してしまって」
「ううん。ありがとう、ぽらちゃん」
「い、いえ・・・」
「ところで、ぽらちゃん。
この星はなんて名前なの?」

ぽらちゃんが、僕の隣にお菓子を置いて、望遠鏡を覗きこんだ。

「あの星、ですか?」
「うん。どこにも名前が載ってないんだ」
「実は、まだ名前が、ついてないんです・・・。
わ、私たち、だけで、名前、つけてみませんか?」
「本当?!
何て名前にする?」

嬉しそうなぽらちゃんに、僕も凄く嬉しくなって、そんな気持ちを抑えられないまま聞き返した。
だって、あの遠くで、きらきら光ってるものに、僕たちが名前をつけるなんて本当、夢みたい。
どんな名前がいいだろう・・・
今からわくわくしてきちゃった!






(ふ、二人の、名前は、どうでしょうか・・・)
(名前の意味を、足してもみてもいいかもしれないよね)